山の神信仰分布調査
更新日:2016年4月1日
調査の概要
市内の里山を中心に広く信仰されている「山の神」を、平成14年1月から3月にかけて85ヶ所で聞き取り調査および山の神碑の撮影をおこないました。
「山の神」とは、山に宿り、山林並びにそこに生息する生物を領有すると信じられた神霊の総称で、神道では大山祇神(おおやまつみのかみ)やその娘の木花開耶姫(このはなさくやひめ)を祭神とした山神社・大山祇神社の名で知られています。一般には、山の神の名で小祠・磐座・大木または特徴のある樹木を依代として祭っているのがポピュラーです。(日本民俗大辞典より抜粋)山の神は、全国で信仰されていますが、伊賀および周辺地域では、鍵引きと呼ばれる行事が特徴的です。
「山の神」の碑は、もともと山の入り口などにあり、数軒のお家で祭っていたようですが、明治の一村一社合祀令により、多くの碑が村の神社に集められてきました。神社の境内を注意深く見ると、片隅に山の神碑や祠が祭られています。今回の調査では、140基あまりの山の神碑を確認することができました。
左図:蔵持原出川北地区山の神碑
中図:短野上出地区山の神碑
右図:布生下出地区山の神碑
カギヒキ神事
名張市内では、鍵引き神事と呼ばれる行事が盛んで、山の神が春になると里に下りてきて、田の神となるといういわれから、1月7日の早朝(一部では、宵鍵と呼び前日6日の夜)に山の神のところへ行き、主にウツギの枝で作った鍵を注連縄(しめなわ)等に引っ掛け、鍵引き歌を3回唄いながら鍵を引っ張り、豊作祈願、福を呼寄せる行事です。また、山の神へのお供え物と一緒に、福俵を持参し、鍵引きの後、どんどでお餅を焼き、この福俵に小石と小判にみたてた葉っぱを入れて、お餅と一緒に家へ持ち帰り、お餅は七草粥に入れ、福俵は1年間神棚に供えているところも多いようです。この行事は、山の神が女性ということで男性だけがおこない、この日は山仕事を休むそうです。
葛尾では、隣接する奈良県山添村で多くみられるクラタテが市内で唯一おこなわれています。
鍵引き神事
三重県中・北部、奈良県東北部の東山中から滋賀県東南部および京都府桑田郡等で、正月におこなわれる初山入りの行事の一つ。多くの事例は、山の神信仰と合体しており、山の神行事の一環としておこなわれる点に特徴がある。(日本民俗大辞典より抜粋)
鍵引き歌
「西の国の糸綿、東の国の銭金、うちの蔵にどっさりこ」(家野中垣内地区)のように福を招き入れる歌詞がポピュラーです。しかし、歌詞も各地区で微妙に異なり、非常におもしろいです。
クラタテ
クラタテは、神の座で、山の神が降臨する場所とも言われ、半紙を四角く切って敷き、四隅に幣をつけたカヤの棒を立て、真ん中にコウジみかんを刺したカヤの棒を立てています。そして、半紙の上には、タツクリ、干し柿、鏡餅などが供えられ、蔵が建ほどの豊作であるよう祈りをこめて作られるそうです。
調査報告書は、名張市立図書館、三重県立図書館(津市)、名張市郷土資料館にて閲覧できます。