敵も味方もない世界へ ~B29墜落地 青蓮寺一ノ谷からの願い~
更新日:2023年8月25日
戦時中、青蓮寺に米軍の爆撃機B29が墜落したことをご存知ですか。
地域の戦没者と一緒にB29搭乗員を供養する地蔵院青蓮寺の住職 耕野 一仁さんにお話を伺いました。
戦時中、青蓮寺にB29が墜落。父の想いを引き継ぎ供養

昭和20年6月5日午前8時40分頃のことでした。神戸を爆撃したB29が、日本の戦闘機の攻撃を受け、青蓮寺の山中(一ノ谷)に墜落。B29に搭乗していた11人のうち、2人は墜落時に亡くなり、残りの9人も大阪・名古屋へ連行され、終戦前に処刑されました(※)。
前住職でもある私の父は、B29が旋回しながら墜落する様子を目撃。燃える機体が熱いと感じるほど、境内すれすれを飛んでいったそうです。境内へ落下した破片は、本堂内に安置されました。
父は、遠い異国の地で亡くなった搭乗員を思い、「戦争の犠牲者は敵も味方も同じだ」と、墜落した6月5日には、破片に手を合わせ供養をしていました。
毎年8月に戦地で亡くなった青蓮寺地区の36人を追悼する戦没者慰霊祭を行っています。私は、「戦争の犠牲者は敵も味方も同じ」という父の言葉がずっと頭に残っており、戦後60年の節目の年に墜落現場にB29搭乗員11人の追悼碑を建立し、一緒に追悼することを思い立ちました。
ご遺族の人たちから抵抗があるのではないかと心配しましたが、「戦地で亡くなった自分の家族を異国の人々が追悼・供養してくれれば、それはとても嬉しいこと。戦地に送った家族の心情は国籍に関係なく同じだから、ぜひ追悼碑を建立し一緒に供養をしてほしい」と受け入れられ、青蓮寺地区の協力のもと「平和の祈り」「平和の集い」を毎年開催し、今日まで供養を続けています。
※太平洋戦争時の空襲などについて調査いただいている布臺一郎氏のレポート「三重県名張市の米軍機墜落について 米国空軍第468爆撃隊第793飛行隊 B29機体番号44−69665の記録」によると、事故犠牲者は写真の10名のうち8名であり、この写真には写っていない3名の合計11名が実際の事故犠牲者です。写真出典元は米国国立公文書館資料
「違いを認め合い、思いやる気持ち」が平和な世界へ

今もロシアとウクライナの間で戦争が行われています。ウクライナの学校や病院はもちろん、ロシアの戦車がミサイルで破壊されているシーンをテレビで目の当たりにした時も、本当に胸が締め付けられる思いでした。
戦車に乗っている兵士にも家族や大切な人がいるはず。亡くなった人の背景まで想像力を働かせなければ、単に「敵と味方」、「正義と悪」として、この悲惨な出来事を受け取ってしまう恐れがあります。
終戦から77年たった今、「敵も味方もない」平和な世界をつくるために、私たちにできることは何でしょうか。ユネスコ憲章の中に「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和の砦を築かなければならない」という言葉があります。人の繋がりが希薄になって、お互いを知ることや、人に寄り添う機会が少なくなってきているように思います。今こそ、「お互いの違いを認め合い、人を思いやる気持ち」を持つことが大事だと私は思います。